2020年4月24日金曜日

進化における協力の意味

期待値の解釈が簡単ではないことをprobability weightingケリー基準のポストを書きながら感じた。これらのポストでは、単純に期待値を最大にするような手段がベストとは限らないことが分かった。

そこで重要だったのが、時間の経過に対しての成長率の平均と、実在はしない平行世界で平均を取る、二種類の期待値の差異だ。

同様の概念を用いて、協力について説明できるという。進化とか協力とか、私は数学を使って考えようなどと考えたことが無かったので、興味を持った。実際には、大学でもmathematical biologyの講義は多いし、研究も盛んだが笑
個人的に、面白いと思ったので、日記に書いていく。



協力とは、自分の持つリソースを他者と共有する行動のことだ。人間を初め、アリやハチなども協力しながら生存している。
また、体一つの単位で見ても、細胞から臓器から、すべて協力している。
生物の目的が、子孫の数を増やすことならば、限られた資源を争いながら生きているはずなのに、それを他人にも分け与えるのはなぜなのか、一見すると、利他的な行動が、なぜ自然界にあふれているのか?
進化論的に説明するべき現象だが、なぜ生き残りに有利になるのだろうか?

これは一般に、包括適応度という概念から説明できるようだ。イギリスの生物学者ウィリアム・ドナルド・ハミルトンが発案したものらしい。これは生物が環境にどの程度適応しているか、あるいはその個体が繁栄できる能力のことだ。実際には、ある個体が生んだ次世代のこのうち、繁殖年齢まで達した子の数を個体適応度とし、この概念を、個体のみではなくその親族や同じ遺伝子を持つ可能性のある他個体までに拡張したものを包括適応度というらしい。
ただし、この適応度の厳密な定義や、数値化は意外と難しそう。環境や時期によって条件は異なるうえ、個体の複雑さ(単細胞なのか否かなど)も考慮に入れるべきかもしれない。

とまれ、ここから協力することの利益として
1)協力し合う2個体間で、受け手の利益(適応度の上昇)が提供側の損失(適応度の減少)を上回る
2)協力することによる利益が、時間の経過とともに、巡り巡って最終的に提供者の適応度を上がる。
ということが考えられる。

とはいえ、単純に資源の移動だけを考えると、資源を渡すコストはかかるし、提供者の適応度の上昇は分かりにくい…どのようにして協力から適応度の増加を得るのか?

Ole Peters は’An evolutionary advantage of cooperation' より
協力の意味は、生物がランダムな変動にさらされていると仮定したときに、

資源の共有を繰り返すことにより、最終的な変動による影響を下げることにつながり、
結果として、長期的な成長率を増加させることにつながることだ。
倍々に成長するシステムの場合、この成長率が一番高い種が、他を凌駕するので生き残ることになるとしている。


実際、気候の変動、天敵の出現、あるいは疫病の流行などなど・・・、生物はランダムな変動にさらされながら生きている。その意味で、この仮定は妥当だろう。
すると、これらの変動に影響を受けにくい特性を持った種が最終的に生き残るのは納得がいく。
そして、個体の能力以外で、この強さを手に入れる方法が、協力ならば、なぜ協力する種が現在これだけ多く存在するのか説明できる!これが協力の正体かもしれない。

きっと、生物の進化だけではなく、人間が作るシステムも何かしら変動の減少と関わりのある変遷を経ているんだろうなと妄想する。
変動にもいろいろな種類があって、コロナ禍から明らかになったように都市の一点集中がどうやらシステムのvolatilityをあげているかもしれないとなると、今後どういう形になるのだろうか。




以下、
1.ランダムな変動が小さいと時間平均の成長率が増加する理由
2.協力することが、ランダムな変動の減少に貢献する理由
について。

原則、種の数には限度があるという点で不十分ではあるが、(蓮の花は、池一杯に広がったらそれ以上は数を増やせないなど)ノイズありの個体の複製は幾何ブラウン運動(geometric Brownian motion)(連続な値を取る標準分布の過程)を用いてモデルされる。

一つ重要になるのが、非エルゴード性(non-ergodicity)(ある変化量について、その期待値と時間平均の極限が一致しないこと)だ!
1.変動(volatility)が小さいことと進化の関係



















2.協力と変動の関係 (数式をoverleafを使って書き始めていたら、wordでも同じ入力形式が使えることが分かった)





















協力しなかった場合(緑、黄緑)と協力した場合(青)の成長のグラフ











2020年4月19日日曜日

たらこパスタ!

最近パスタをよく食べるのですが、一つ、今日にいたるまで食べることが出来なかったパスタがあります。たらこパスタです!笑

日本だったら、スーパーでたらこパスタの素を買えば簡単に作れるのに、イギリスには同じものが売っていない…と思ってあきらめていました。
今までは、日本からイギリスに行くときに、何袋か買いだめて持ってきて、ついてから1か月以内くらいに、一食ずつ大切に消費していました。

ところが、最近、イギリスのスーパーにたらこの缶詰が売っているらしいということを知り、実際に近くのテスコに行ったところ、200g2ポンドくらい(値段忘れました、、、)
で発見し、迷わず買いました。笑
Princes Pressed Cod Roe

Youtubeのcococoroチャンネルを参考に
バター(15g)、醤油(小さじ1)、みりん(小さじ1)、オリーブオイル(大匙1弱)、昆布茶(ちょっと)を混ぜていただきました。(超簡単でした)惜しむらくは、のりが無かったことですが、普通に美味しいたらこスパゲッティでした!笑




画像https://www.princes.co.uk/our-products/fish/other-fish/product-pressed-cod-roe/

カップのコーヒーをこぼさないために

流体力学の復習をしていたところ、関連したトピックについての論文を見つけました。

ずばり、スロッシングについてです笑(日本語なんだろう。ウィキペディアではカタカナ表記でした…)
どういう現象かというと、例えば原油のコンテナの油が、地震などの際に、容器の揺れの影響で揺れたり、クルーズ船の中にあるプールの水が飛び散ったりするような現象です。
つまり動きのある容器の中にあり自由表面?(free surface)をもつ流体が、この容器の動きの影響を受けたときの運動です。

見つけた論文で取り上げられていた身近な例が、マグカップに入ったコーヒーを、持ち歩いている時の、カップの中のコーヒーの運きです。
この揺れが液体の持つ固有周波数と一致すると、揺れの振幅が増幅されるので、コーヒーがこぼれてしまいます。その対策を、ばねを用いたモデルから考えます。
カップやコーヒーの質量、カップに与える揺れの周波数と、使用するばねの性質(ばね係数)と固有周波数の関係を定式化すれば、コーヒーの表面の揺れを制御することが可能になり、朝寝ぼけていても、速足で運んでも、コーヒーをこぼさないようなデザインを設計可能になるだろうという寸法です。


実際、揺れの軽減装置がない状況だと、速足したとき程度の周期の短い揺れによって、コーヒーの振幅が発散(揺れの周波数が固有周波数と一致する)するという結論が得られます。他方、緩めのばねを用いた場合(あるいは吊りかご的なもので運ぶ場合)には、表面の揺れを小さく抑えることが出来るようです!笑


このモデリングや解法のテクニックが去年、今年勉強した流体力学の手法そのままだったので理論の応用先の1つの説明として使えそうですw(有用かどうかは置いておいて)


Oxfordの数学科の名誉教授による”how to mitigate sloshing”という論文です。

コーヒーを持つ人の引き起こす揺れを軽減するために、ばねを利用するモデルを考えます。下の図のPが、持ちての部分、そしてPQが手とカップの間をつなぐばねです。


問題を簡単にするために、コーヒーの表面の揺れηをhやLに比べてかなり小さいと仮定します。こうすることで、linearisationから線形の問題を得ます。
コーヒーの粘性は無視すると、最初の状態が非回転なので、流体の運動は常に非回転となります。ここから、velocity potential Φを用いて、u=∇Φと書けます。
そして、境界条件として、kinematic conditionやdynamic conditionを考えると・・・。
さらに、容器に加わる力は、ニュートンの法則から、求められます(ばねの張力はフックの法則から)。

有限の容器の中の波動なので、フーリエ級数を使ってコーヒーの固有振動数を求められます。また、ニュートンの式から、容器の揺れ(X)の振幅を求め、ここから、コーヒーの揺れηの振幅が求まります。これらより、
表面の揺れの振幅


コーヒーの固有振動数

といういかにもな式が導出されます笑
λはばねPQのばね係数です。
そしてこの式から、λの値によって、揺れの振幅をある程度コントロールできることが分かります。

参考 H.Ockendon, J.R.Ochendon, "How to mitigate sloshing" https://epubs.siam.org/doi/abs/10.1137/16M1077787

2020年4月16日木曜日

リンディ効果

我々人間も含め、物理的なものは時間の経過につれて老化し、余命の期待値(平均)が削られていくが、その一方で、時間の経過とともに、その寿命が延びていくものが存在する!

例えば、印刷された本は経年劣化していき、ある時読めなくなるが、本の内容自体は、別のコピーで生きながらえられることから、必ずしも有限の寿命を有しているわけではない。そして実際、古典として古くから残っている作品は存在する。
これらの本は古いから優れているのではなく、優れているから生き延び、古い作品になったと考えるのが自然だ。それならば、長く生き延びたものほど、長い余命(言い換えれば”若さ”)を持つ傾向がありそうだと考えられる。

こうしたものの寿命は、リンディ効果と呼ばれる法則で説明される。

リンディ効果と呼ばれるのは、リンディーズというニューヨークのデリカテッセンで語られるようになったショーの継続される期間に観測された経験則が土台になっているらしい。


リンディ効果というのは、厳密に言うと
未来の寿命の期待値(または中央値)が、現在の年齢に比例する
という法則のことだ。
これは、寿命をTと置くと、
c<t<∞について(*小さすぎるtについては必ずしも成り立たない)






と書ける。

つまり、だんだん若返っていくもの、あるいは反老化の現象をいう。
これは、年を経るにつれ、システムから拒絶される(絶滅)可能性が下がっていき、結果として生き残る可能性が上がっていくために起こる。
脆弱性という観点で見ると分かりやすい。脆弱性とは変動性への感度というタレブの定義から、より時間を経たもの(大きな変動性)ほど平均寿命が長くなることが説明される。
この仕組みから、どうようの現象は他の場面でも考えられる。下で述べるパレート分布の関連から明らかなように、収入の分布なども類似の性質を持つ。(収入が大きいほど、変化に対して頑強(あるいは反脆弱)なため、より大きな財産を持つ。)


このリンディ効果の定義から、リンディ効果を満たす対象はパレート分布に従うことが導ける。このパレート分布は、収入や資産の分布のモデルなどで利用されているものだ。有名なのは、80-20ルール、というもので、全体の80%の富は、全体の20%の人口が所有しているというものだ。
この分布から、定数pが1の時、余命の期待値が年齢と同じ時、分布の分散が∞に発散する。


*
サバイバル関数(寿命がt以上である確率)をΦ(t)と置くと(Φ(t)=P(T>t))
①,②から、







特に、上の式はTがt以上という条件下で、tの直後に寿命が来る確率を表しているので、1/tの項から、時間が経つにつれて、サバイバルする確率が上がることが分かる。

また、これらの式を解くことで、




を得られる。

参考*Iddo Eliazar, Lindy’s Law, 2017

2020年4月14日火曜日

ケリー基準とは

最近、たまに目にするケリー基準(Kelly criterion)について。
投資や賭け事の文脈でケリー基準という単語を見かける。
これは、資産の成長率を最大化するためのテクニックで、一連の投資において、毎回一定の割合の資産を投資するという方法なようだ。
コイントスの話と被るが、ギャンブルの文脈などでよく用いられたそう
Paul Wilmottの”frequently asked questions in quantitative finance”を参考に以下続けます。
元の論文を書いているKellyはランダムなエラーを有するチャンネルでのtransmission rate の最適化や、その他のcontextでの示唆を与えようというcommunication theoryの挑戦から始まったというのが驚きました。

Probability weightingの話とも一部似ていますが、この戦略もぱっとみは、直観に反するようなやり方です。

例えば、次のような状況を考えます。
結果に偏りのあるコインを用いて、イーブンの賭けを行う(二人で同額賭けて、勝者が総取り)。
このコインで表が出る確率pが1/2より大きいとし、手持ち仮に10000円からスタートするとする。
この時、どの金額で賭けるべきか?というのが問題です。
p>1/2という条件から、賢く賭ければ、儲けられそうなことは確かです。

しかし、例えば次の賭けの期待値が最大になるような賭け方は、
x円賭けたときの、期待値がE(X)=p(10000+x)+(1-p)(10000-x)=10000+x(2p-1)から、x=10000の時であることは明らかですが、この方法を取れば当然ながら、仮に負けたときに資金が0になり賭けを継続不可能になるので、長期的な儲けで考えるとベストとは言えそうにありません。実際、有限回の賭けを行う場合には、これで期待値を最大化できたとしても、無限に賭けを繰り返せるという条件可では、この戦略だと確率1で(つまり必ず)破産します。

そこで、手持ちの資金を一定の割合で賭け続ける戦略を考えます。
Exponential rate of growth(指数成長率) G を次のように定義します。

V0が最初の資産、VNがN回目の賭けの後の資産です。
これは、賭けを繰り返していくときの、資産の平均的な成長の速さの指標です。
上記の一定の割合をfと置くと、
n回の賭けのあとの資産は、Wnは勝った数、Lnは負けた数と置いて、
Vn=V0*((1+f)^Wn) *(1-f)^Ln)
この場合、確率の定義から、lim(Wn/N)=p,lim(Ln/N)=1-pなので、w.p.1で
です。これを、fについて最適化すると、f=2p-1で、
最適化されたGは、G=plog(2p)+(1-p)log(2-2p)=1+p・log(p)+q・log(q) , q = 1-p
が導かれます。

つまり、仮にコイントスの表の確率p=0.55だとすると、f=0.1なので、資産の1割をかけ続けることで、exponential成長率Gを最大化することができます。(結構小さいなという印象です)この戦略をとることで、長期的にはそのほかのどんな割合を選んだ時よりも多くの富を有するに至ると結論できます。これより小さい割合で賭ければ、保守的で、より高い割合にすれば変動率が上がり、予測がつきにくくなり、結果長期的なリターンは小さくなります。
より複雑なケースも、条件付確率などを用いて、似たように計算されています。

期待値の最大化が直観的に正しい戦略に思えるものの、そうとも限らないというのが、一つの重要な結果だと思います。また、上のようなギャンブルの問題だけでなく、投資などにも応用可能な概念です。wikipediaによると、Warren Buffettも使っているそう。ただし、仮にギャンブルで得たお金を再度賭けに使うことが出来なかったり、毎回同額の掛け金を出せると仮定するならば、毎回期待値を最大化する賭けがベストな賭けになります。これは、破産の可能性のある個人のギャンブラーと、全体としては破産はしないギャンブラーの集合の対比と似ています。
とすると、time-probabilityとensemble probabilityが重要な概念になりそうです。

今日のごはんは中華にしました。笑

2020年4月2日木曜日

フェアなコイントス

確率論は、ギャンブルの戦略から大いに発展しています。
故に、確率を理解する時や、問題の中に、ギャンブルを題材としたものは多いです。

ただし、そこは理論の世界。特にマルチンゲールという特殊な確率過程のクラスを考えるとき、フェアなギャンブル、つまり期待値0のギャンブルという状況をよく考えます。

これに関する問題を一つ紹介します。

ちなみに、英語で、コインの表はHead、裏はTailなので、一般にコイントスの結果をHTTHHH・・・という風に書きます。

この時、例えばHTHTHTという結果を得るために必要なトスの試行回数の平均(期待値)を求めたいというのが今回のテーマです。

次のような状況を考えます。
1)コインの各試行は独立で、表裏が出る確率はそれぞれ二分の一。
2)次のコインの結果に対して、賭けをし、当たれば賭けた金が倍になり、外せばすべて失う。(なので期待値0のフェアな賭け)
3)各試行で、新しいプレイヤーが、まず1ポンドをHに賭けます。
4)買った場合は、次に手持ちの財産すべて(2ポンド)をTに賭ける。
負けた場合は即終了し、去る。
5)以降、勝ち続けている場合は、HTHTHTの順に手持ちの財産をすべて賭け続ける。

初めて、HTHTHTという列を得られた時の、最後のTが出た時点をSと置きます。(Sはstopping time。期待値は有限と証明できる)
n回目の試行での、カジノ側の収益(プレイヤーの賭けたお金の合計ープレイヤーが勝ったお金の合計)をX(n)と置きます。

この時、Optional stopping theoremという定理から、X(S)の期待値がX(0)の期待値と等しいと言えます。つまり、HTHTHTが出たとき期待されるカジノの儲けは0ポンド、E(X(S))=0です。
なお、状況設定から、Sはプレイヤーが賭けた金額の合計と等しくなります。
また、S回目の試行が終わった時、
HTHTHTの予測を当てたプレイヤー、HTHTの予測を当てたプレイヤー、HTの予測を当てたプレイヤーが存在しており、各々2^6,2^4,2^2ポンドを手にしています。

故に、0=2^6+2^4+2^2-E(S)が成り立ち、E(S)=84と求められます。

またこの結果から、最も期待値が大きくなってしまう賭け(成立するまでに時間がかかる長さ6の列)は、HHHHHH(あるいはTTTTTT)で平均126試行(2+4+8+16+32+64=2*(2^6-1))を要するのに対して、
一番短いものはHHHHHTなどで平均64回の試行を要するという結論を導けます。

HHHHHHが一番出にくいのはなんとなく腑に落ちますが、その一方でHHHHHTが一番すぐに出てくるって面白くないですか?
上の結論を得るために、マルチンゲール、停止時刻などの概念が利用されています。これを考えるために、確率空間や、情報系などの理論が必要になるので、1学期に測度論の授業で勉強した内容ですが、なんだかんだ学期の後半に漸く導けるようになる理論でした笑

ニュートンの微分積分学

イギリスでは、ロックダウン生活が続いています。

最近知ったのですが、イギリスが誇る偉大な物理、数学者であるニュートンは、
20代前半の時に、当時の黒死病の流行からリモートワークをしていた時に、
微積分や重力に関するアイデアを発展させていたらしい。
また、14世紀のペストの流行が引き起こした人口激減が、生き残った農民達の待遇などを向上させ、結果ルネサンスなどの動きを活発にさせたようだ。

個人的なレベルでも、社会的なレベルでも、長期的に見れば感染病の恐怖や不自由が、逆に成長や発展に貢献するということは、ストレスがたまる暮らしの中でも、勇気を与えてくれる。